立川マンドリンクラブ会報 第76号2022.07.23発行
運ばれてゆくタクト
Conductor 星 嘉裕
 2021年10月3日 定演ステ一ジ
 指揮台に立っている私はかなりの緊張状態にありました。7月下旬、前任者が病で倒れ、初めてタクトを握ることに。大ホールステージ中央で所作も目立つ指揮者。あがらない事はあり得ないsituationですが、何故か耳はクリアな音を捉え続け、曲が進むにつれ楽器の音を聴き取り始めた自分がいました。
 1部の6曲目、今までの練習中には感じた事のない不思議な感覚に襲われます。ドラが奏でる3連符のメロディライン、そのラインを1stと2ndが引き継ぐように歌い、全体がフォルテへ誘われるところ、指揮棒の先が、急に奏者の皆さんの方に引っ張られて・・・上へ向かって運ばれていくように感じました。 

             「この感覚は・・・⁉」
 黄昏も同じ感覚が来て、マスク裏の口元が何故か笑っていました。その時、ステージ上での緊張感は全く消えていて・・・ ffの小節、タクトがU字の図形を振りはじめていました。全体がきれいにffで響いたあの小節、その時の言葉に出来ない感覚の心地良さが終演後も右腕に残りました。
 退出時刻が迫ったホールから足早にその場を出たので、数人の方との挨拶で場を離れたのがとても残念でした。定演終了後の懇親会はコロナ禍で開かれず、すぐ家路に着くことに。帰り際ハンドルを握る手で運転席の窓ガラスを下げると
 「お疲れさま。気をつけて帰って!」 
 と数人の方から声をかけて頂きました。表情が穏やかで素敵だったことが記憶に残っています。久しぶりに経験した非日常の緊張感。ホールで得られた不思議な感覚。帰路一人ハンドルを握りながら、「終わった・・・」と呟いていました。心地良い気持ちから車中で出た安堵の言葉でした。
 コロナ禍だった、テレワークが続いていた、だから集中した時間を持てた。これが10月に振ることができた理由と思います。超のつく初級者の指揮に合わせていただいた奏者のみなさまにとても感謝しています。