立川マンドリンクラブ会報 第36号2011.4.2発行
スルタンの気持ち・・Guitar 梅津祐二
 町を歩いていたら「ホセ・ラミレス入荷」のポスターが目に入った。こんな東京の田舎の鄙びた地の店で取り扱っているのだろうかと訝しみながら、冷やかし半分に店に入ってみた。この店は長野でアコースティックギターを製造し、これを店頭に置き販売し、その売れゆきが優秀なのでご褒美に楽器輸入商から見込まれて、一台を入荷できたのだそうだ。立川地区ではこの店しか取り扱っていないという。
 茶褐色の強いボディーで、サウンドリングに花柄のローゼットが施されたきれいな姿をしていた。一目ぼれという感じだった。相当な結納金だった。帰ってきてインターネットで調べてみると福山地方では結納金は東京地方より安いことがわかった。自分が定年後の時間を何か楽器を演奏することで過ごせたらと「バレンシア」なるスペインの工房で生まれたやや体重が重く少し声も悪いがしっかり頑丈な彼女が我が家に既にいたので、新たな彼女を求めることに躊躇した。イスラムの世界では複数の奥さんを持つことが許される。そうだ楽器の世界はイスラムの文化になればいいんだ。数日して、インターネットのプリントアウトを持ってあの店へ行った。これほど値引きしていることを告げ、結納金の交渉が成立した。
 我が家に「ホセ・ラミレス三世の娘(アマリア・ラミレス)」の生み出した彼女がやってきた。胴が薄い、茶褐色の肌で、よく通る声を持ち、見目麗しき容姿端麗な彼女である。
 さあ、前の彼女と後の彼女をどのように取り扱ったらよいのか悩ましいところだ。スルタンもきっと悩んだのだろうな。
 練習の時は980円で買ったナップザックを改造した背負い子で、彼女たちを背負って自転車で走って通っている。ある時、頭のすぐ上にある舗道に張り出している交通標識にぶつかった。すざまじい音を立てて自分は自転車から振り落とされかかった。止まってチェックするとケースに大きなへこみができたが彼女は大丈夫だった。この事件以来、練習に通う時は、前の頑丈な彼女をつれていくことにした。演奏会などの舞台には声の良い容姿端麗な彼女をつれていくことにした。きっと、スルタンだって同じビヘービアであったはずだが・・。
 我が家での練習でも、今日はどちらの彼女に付き合ってもらおうかと、贅沢な悩みをしながら弾き始めている。
 エジプトのあのアブシンベル神殿などを建てた偉大なるファラオ「ラムセス二世」は、39人の奥さんを持ち、百数十人の子供を持っていたという。力のあるファラオやスルタンはすざまじくすごい。たった2つの彼女で悩んでいるなんて小さい、小さい。
 でもね、話は違うんだが、「本当に、カミさんひとりでもう大変なんですから。」