立川マンドリンクラブ会報 第33号2010.7.25発行
楽詩「雪の造型」鈴木静一作曲
「枯野のちる霙」(石狩野にて)
曲は灰色の厚い雲にとざされた空の下に拡がる石狩の荒野の荒寥(こうりょう)に始まる。冷たい風が枯野を波だたせ、霙が音をたててふりかかる。枯れた萓がたてる乾いた音。
その下の黒い泥炭地は、白い斑点に鋳つぶされてゆく。雪の先ぶれである。


「雪の造型」(ニセコアンヌプリ(山)にて)
天地は白い闇に包まれ激しく鳴動する。
吹雪は、そのすさまじい動乱の中でさまざま造型する。
枯葉一枚つけない枯木に雪の花を咲かせ、花はやがて甲殻類の尾を伸ばす。
山稜には巨大は雪屁が発達し、常緑の木々は白衣の怪物に変化する。
吹雪はさらに朽ちかけた山小屋を壮麗な氷雪の宮殿に変容させてしまう。
吹雪の動乱が遠のくと静かなフルートのソロが出て、「月冴えて」に続く。


「月冴えて」(北大キャンパスにて)
地表は一面雪の白布に覆われ、夜は菩提樹の梢をゆるがす風もなく静寂であった。
冷澄(れいちょう)の月光を浴び、微かな ”蒼”を含む雪の表面を音もなく這う蒼銀のヴェールは、このキャンパスのどこかを流れる小さな流れが吐く狭霧……。
月は益々冴え、夜は明日の夜明けがあるとも思われず深く…… 静かに更けてゆく……。

「鈴木静一 そのマンドリン音楽と生涯」鈴木静一没後15周年記念演奏会実行委員会編より
北大キャンパス中央道路の夜景