立川マンドリンクラブ会報 第29号2009.07.12発行
「山の印象」鈴木静一の記述から
第一楽章:夜明け
 暗く 深く 山はまだ眠っていた
 暗黒から薄明への微妙な光の変化がおこる
 神秘な山のめざめを
 マンドチェロが静かに奏す
 やがて(一)日の出の時が近づく
 谷々を埋めていた霧の動揺が始まる
 そして東の空の淡紅が光を増し
 恵まれた晴天の朝の陽が輝き出る
第二楽章:山行く歌
 ゆるやかにつらなる尾根を
 若人の群が辿って来る
 爽快な山歩きは明るい歌声となり
 山のいたずらもの“こだま”がはしゃぐ
 若い足は すでに尾根から尾根をつたい遠ざかって行く
第三楽章:高原の午後
 山の牧場の真昼は すがすがしい郭公の声が
 やすらう人達の眠気を誘う
 草原に寝ころび見上げる大空は美しく晴れ
 木々の青葉そよがせる風が
 汗ばんだ肌に快い高原の真昼
第四楽章:麓を指して
 登りには顎を出させられた山も
 下りには快適に足が弾む
 刈草を積み 鈴の音も軽く下ってくる馬とも競争――
 爽快な そして ちょびっと哀愁の感じる下山の情景
 これは23才(1924)の処女作であるが、第2楽章の“山祭り”が気に入らず、これを省いて3章として発表した曲である。後にこの曲の初演をいっしょに弾いた小池正夫が逝去し、その追悼コンサートに出たのが契機となりマンドリン界に戻った1965年に改作し“山行く歌”とし、原作の4楽章としたものである。
「鈴木静一 そのマンドリン音楽と生涯」鈴木静一没後15周年記念演奏会実行委員会編より抜粋