立川マンドリンクラブ会報 第19号2007.1.6発行
『マンドリン音楽紀行』の思い出(5)伊藤 博
第4回《フランス特集》(2000年・第19回定期演奏会)で印象に残る曲は、C.C.サンサーンスの『序奏とロンドカプリチオーソ』と、A.L.ウェバーの『オペラ座の怪人』です。

【1】『序奏とロンドカプリチオーソ』は、サラサーテの『ツィゴィネル・ワイゼン』(地球紀行第1回で演奏)と共に私の最も好きなヴァイオリン曲でした。しかも作曲者のサンサーンスは、19世紀に無数のヴァイオリニストたちによる名人芸的演奏に溢れていた黄金時代に、その中で最も優れたヴィルトゥオーソの一人だったサラサーテに、この曲を献呈していたのです。
日本マンドリン連盟では、数十年前から『マンドリン独奏コンクール』を開催していました。演奏会場が東京で実施される時は、いつも聴きに行くのを楽しみにしていました。ヴァイオリンとマンドリンは同じ調弦(ミラレソ)なので、この2つの名曲はコンクールの自由曲として、ピアノ伴奏で毎回出場者の誰かがこの《難・名曲》に挑戦していました。
15年ほど前の独奏コンクールの自由曲で、この『序奏とロンド…』に挑戦した同志社大付属高校2年の少年がいました。その演奏はそれまで沢山聴いたマンドリンの『序奏とロンド…』の中で、最も素晴らしいもので、しかもその年の出場者の中で最も優れた演奏だったのです。しかし、結果はその少年は第3位でした。私は残念でたまらず会終了後にその少年マンドリンヴィルトゥオーソに『私は君が第1位だと信じている』と激励して会場を後にしました。
その少年は3年後のコンクールで見事に優勝しました。後年、この少年がプロのマンドリンカルテット《アルスノヴァ》のリーダーで活躍している井上泰信君であることを知りました。
何故か『ツィゴイネル…』も『序奏とロンド…』も、マンドリン演奏会では、オケとの協奏スタイルの演奏に出会えませんでした。立川MCなら出来ると確信して編曲し、マンドリン音楽地球紀行で、豊田さんの独奏と全員合奏の協演で実現出来たことを心より嬉しく思います。

【2】『オペラ座の怪人』は、《フランス紀行》が決まったときに、現副代表の桑原由貴さんから提案を頂いた曲です。ミュージカルの名手アンドリュー・ロイド・ウェバーが作曲し、ブロードウエイで大ヒットし、日本でも劇団『四季』による公演で熱狂的な支持を得ました。
このミュージカル曲は、24場面の中で、ヒロインとオペラ座の怪人が歌う主題音楽を、どう再創造するかがポイントになります。劇団『四季』のミュージカルCDを聴くと、メロディの表現に重点を置いた演奏になっています。私の《臍曲がり冒険精神》に火がつきました。
この最大の見せ場で《怪人とヒロインが歌う主題》に対して、旋律パート以外の全パートを、f>p<f>p<f>p<fの連続による《アレグロ・ヴィヴァーチェ・ピッキング・オブリガード》で埋め尽くしてみたのです。この《激奏》をさらに効果的にするために、主題の中間に《アンダンテ・ドルチェ》の愛の歌《ミュージック・オブ・ザ・ナイト》を挿入しました。
マンドリン連盟関東支部フェスティバルでの演奏や、第19回定期演奏会を聴かれた大学や一般のマンドリンクラブなど数団体から『うちでも演奏してみたい』という申し出を頂きました。こういう経験は初めてでした。私にとって忘れられない思い出の一つです。