立川マンドリンクラブ会報 第18号2006.11.4発行
『マンドリン音楽紀行』の思い出(4)伊藤 博
この地球紀行の第3回は『アメリカ特集』で、18回定演(1999年)でした。この特集の特徴は、豊田さゆりさん・古田栄治さんが編曲に参加し、オープニング曲・エンディング曲を作ってくれた河邉奈津子さんが、難しいジャズ曲のアレンジに挑戦してくれたことです。
荒野の七人(バーンスタイン)は、豊田さんは謙遜して『ただ映画の演奏録音をコピーしただけです』と言われますが、まさにこの映画を彷彿とさせるようなメリハリのある編曲でした。マンドリンという楽器の特質を熟知している豊田さんならではの編曲でした。
聖者の行進(アメリカ民謡)は、豪放磊落な古田さんの人柄そのものの魅力的な編曲で、所々にジャズっぽい雰囲気が顔を出す楽しい作品でした。
アメリカの作曲家と言えばフォスター?ガーシュイン?バーンスタイン?ジョンケージなどを思い浮かべる人が多いと思いますが、他の国に無い独創の音楽は何と言ってもジャズです。
しかし、私の乏しい知識では、過去のマンドリンの演奏会で、ジャズ曲を取り上げたケースを知りませんでした。勿論、ジャズ曲のマンドリン楽譜を見たこともありませんでした。考えてみるとジャズは楽譜が無くてプレイヤーの感性・個性・独創で演奏するものでした。
でも、アメリカ特集を企画したのに、ジャズをマンドリンで演奏出来なかったら、悔いを一生残すことになります。そこで『生命の息吹』も『トゥモロウ』も原譜がなくて、テレビを聴いてそこから音を拾って編曲をしてくれた河邉さんに、今度も採譜・編曲をお願いしました。
手許にロスアンジェルスの一流ジャズメンによる『キング・オブ・ディキシーランド』(L.A.K.D.)が1959年にアメリカのクラウン社に残したアルバムのCDがありました。皆が知っていて面白いアメリカ生まれの大衆曲を、ディキシーランド・ジャズスタイルで演奏したものです。この中から『鉄道讃歌』を選んで河邉さんにお願いしたのです。
『鉄道讃歌』は作者不詳のアメリカン・トラディッショナル・ソング(民謡)で、1880年頃から民衆によって歌われ始め、1894年に楽譜が出版されたようです。日本では『線路が続くよ何処までも』の訳詞で親しまれています。
今、キング・オブ・ディキシーランド (1959年録音)と、40年後の立川マンドリンクラブ(T.M.C.)(1999年録音)の演奏を、楽しく聴き比べながらこの原稿を書いています。
トランペット・トロンボーン・テナーサックス・クラリネット・ピアノ・バス・チューバ・ドラムの《L.A.K.D.》と、マンドリン・マンドラ・マンドチェロ・ギター・バス・打楽器の《T.M.C.》の演奏は全く異なるものですが、演奏に使っている楽譜に書かれている音符の繋がりは全く同じでした。河邉さんの絶対音感と編曲の凄さに改めて感嘆しています。
ジャズの演奏はときどき或る楽器のソロになります。1Mの豊田さん、Dの斎藤さん、MCの古田さんの達者な感性的・個性的な《ジャズ・ソロ》を久し振りに堪能しています。