立川マンドリンクラブ会報 17号2006.7.1発行
『マンドリン音楽地球紀行』の思い出(3)伊藤 博
『マンドリン音楽地球紀行』の第2回に、何故『ロシア』を選んだのか、いま考えても思い出せません。きっとこの企画を立てたときから、スタートは『ウイーン』で、その次は『ロシア』に決めていたのだと思います。それほどロシアの作曲家たちの個性的で魅惑的で幻想的な音楽に魅かれていたのでしょう。それにマンドリン合奏にし易いと思い込んでいました。
佐伯亮さんの編曲された『ロシア民謡《二つのギター》』は、多くの同曲の編曲の中でメリハリがあり劇的な効果のある作品でした。冒頭の豊田さんと河辺さんのソロが印象的です。
リムスキー・コルサコフの『交響組曲《シェヘラザード》』の中の『海とシンドバッドの船』は、少年の頃から『アラビアンナイト』で知っていて、賢明な王妃シェヘラザードを表わす幻想的な主題旋律に魅了され、どうしてもマンドリン合奏で取り上げてみたい曲の一つでした。
リムスキー・コルサコフは正規の音楽教育を受けず、海軍士官のときに余技・道楽として作曲家になった人です。アマチュア楽器と言われるマンドリン愛好者には親しみ易い人でした。
最高レベルの演奏曲と同じものであったのです。

それにロシアと言えば何と言っても《チャイコフスキー》です。多くの名曲の中から、豊田さんが『胡桃割り人形より行進曲・葦笛の踊り・トレパック』(たかしまあきひこ編曲)を推薦し、私が『白鳥の湖より 情景・小さな白鳥の踊り・チャルダッシュ』(自編曲)を推薦し、結局両方を演奏することになりました。今考えると名編曲者たかしまあきひこさんの作品に臆面もなく並立するなんて、まさに《めくら蛇におじず》の楽しい冷や汗の思い出です。

私は第14回定期演奏会(1995年)から第16回(1997年)まで、一人で指揮を担当しておりましたが、ロシア特集を演奏したこの第17回定期演奏会の、マンドリンオリジナル曲ステージ(受難のミサ・ロマン風間奏曲・華燭の祭典)に初めて高津さんが指揮者として登場します。そして《ロマン風間奏曲》を1曲だけ指揮を受け持ってくれました。その後第19回からは、第1部(マンドリンオリジナル)を全曲担当し、第22回からはオリジナル作品・編曲作品双方の指揮を受け持ってくれるようになりました。

今年の1月15日(日)に日本マンドリン連盟関東支部主催による《合奏コンクール東京》が開催されましたが、予選を勝ち抜いて出演した5団体のうち、福岡マンドリンオーケストラが『華燭の祭典』(2位)を演奏し、リベルテマンドリンアンサンブルが『くるみ割り人形』(1位)を演奏しています。そして、第24回定期演奏会のトリに高津さんの指揮で演奏した『ダッタン人の踊り』を、同志社女子中学高等学校マンドリンクラブ(3位)が演奏したのです。
偶然の一致とは言え、私たち立川マンドリンクラブが日常練習し演奏している曲が、日本のマンドリン音楽演奏の最高レベルの演奏曲と同じものであったのです。
私はいま、第17回(テープ)と、第24回(CD)の定期演奏会のこれらの曲の演奏録音を聴きながらこの原稿を書いています。一つ一つの曲に練習の時の、苦しかった・楽しかった思い出が蘇ってきます。プログラムには記載されていませんが、ロシア特集ステージの冒頭には私の編曲による『展覧会の絵より《プロムナード》』で始まります。短いフレーズの曲がなかなか満足する編曲ができずに苦労したのも、今は楽しい思い出になりました。