立川マンドリンクラブ会報 16号2006.4.23発行
『マンドリン音楽地球紀行』の思い出(2)伊藤 博
第1回の《ウイーン特集》では『ウイーンの森の物語』 『オペレッタ・メリーウィドウ抜粋』 『ツィゴイネルワイゼン』の3曲を取り上げています。どれも大変な大曲なのに《怖いもの知らず》と言いましょうか、今になって振り返ると冷や汗が出て来ます。
この特集シリーズを始める前年の《第15回定期演奏会・平成8年に『屋根の上のヴァイオリン弾き』を企画して何とか破綻せずに演奏できたので変な自信がついていたのでしょう。この曲は若い方は西田敏行の主演でご存じのブロ一ドウエイ・ミュージカルですが、日本では森繁久弥の主演で帝国劇場でロングランとなり、大ヒットした曲だったのです。しかし日本のマンドリン団体では、この中の「日は昇り日は沈む』だけの《単曲編曲演奏》はありましたが、ミュージカル・メドレーとして取り上げる団体はありませんでした。
立川マンドリンクラブは2代目代表の古田さんを始めとして『一回弾いた曲は原則として再演奏しない』という変人・頑固集団ですから、いつも新しい曲はないかと探し廻っていました。ですから、私の無謀な計画も直ちに採択され、コンミスの豊田さんを始めとして、大勢のメンバーが帝国劇場に聴きに行って研究するなど熱心な取り組みが行なわれたのです。そのような訳で、気をよくして暴走を開始した《音楽地球紀行シリーズ》だったのです。

第1回を《ウイーン》にした理由は明白です。昭和10年代にクラシック音楽の魅力の虜になった少年にとって、西洋音楽の中心地・ウイーン、ヨハン・シュトラウスだけでなく、バッハもハイドンもモーツァルトもベ一トーヴェンもシューベルトも活躍の場であった音楽の都ウイーンは《音楽の聖地》でした。これはもう《音楽》ではなくて《信仰》でした。
40歳代にイタリアのベニスに仕事で訪れることが多かった私は、或る年の冬、仕事を終えてから単身で憧れのウイーンに立ち寄ったことがあります。お正月にNHKで放映するニユーイヤーコンサートの会場である《楽友協会ホール》の中を見たかっただけの理由からです。
もう一つは、少年時代から《耳タコ》になる位聴いていた「ツィゴイネルワイゼン』を、編曲も演奏も指揮も全て立川MCだけの手作りでやってみたかったのです。当時、マンドリン運盟主催の《独奏コンクール》の自由曲に、ピアノ伴奏によるこの曲がしばしば演奏されていました。しかし、マンドリン・オケとの協奏による演奏会が開催されるのは珍しかったのです。
これを豊田さんのマンドリン独奏と、立川MCのオケで協奏してみたい。これが前述の《変人・頑固集団》の好みに合致しました。更にそれを《音楽地球紀行》の第1回《ウイーン》でやることの《意義》が、私の心の中では少しの矛盾もなく共存していたのです。
豊田さんはこの難曲を弾いた経験はありませんでしたが、即座に快く承諾してくれました。私の自宅に来てもらって、独奏者と指揮者二人だけの特訓をしたのも楽しい思い出です。