立川マンドリンクラブ会報 第15号2006.1.15発行
『マンドリン音楽紀行』の思い出(1)伊藤 博
第16回定期演奏会(1997年=平成9年)から始まった『マンドリン音楽地球紀行』は、世界の音楽の都《ウイーン》を出発し、《ロシァ・17回定演》から《アメリカ・18回》と《フランス・19回》を廻り、いったん《日本・20回》に立ち寄ってから、遥か《中南米・21回》に飛び、《スペイン・22回》から《イギリス・23回》を廻り、駱駝に乗って《シルクロード》の諸国を経由し、いよいよ第25回定期演奏会(2006年=平成18年)には、絹の道の終着点でもあり、同時にマンドリンが生まれた国イタリアのローマに到着します。
ウイーンを旅立ってから丁度10年かかつてマンドリンの故郷に帰って来ることが出来ました。この特集企画を始めるときから、イタリアに着いたら一区切りになりますので、ひとまず『音楽紀行』を終了し、25回に及ぶ定期演奏会と10回の特集企画を振り返り、印象に残った曲を選んで《総集編》を開催したらどうかと 話し合って来ました。

小人数で始めた立川マンドリンクラブの定期演奏会は、第10回に20名を越したため、指揮者が必要になり、第11回(1992年=平成4年)から私が指揮を担当することになりました。そして第11回から第15回まで5回の定期演奏会を経験する中で、立川MCの皆さんが新しい企画に挑戦する意欲に溢れていることを知り、定演の演奏曲を世界の国別に特集して、この『マンドリン音楽地球紀行』を提案したのです。
ちょうどその頃、NHKで世界の国々の文化や生活や経済や政治などを特集した《世界紀行シリーズ》が人気を博していました。このテーマ音楽が『生命の息吹』と『トゥモロウ』でした。これをマンドリンに編曲して、オープニング曲とエンディング曲に使うことにしました。
ところが楽譜が市販されておりません。しかし、河辺奈津子さんが絶対音感の習熟者であり、テレビを見て全パートの音符を写譜できる才能を持たれていることを知り、編曲をお願いしました。オープニング曲は最初の頃は幕を閉めて演奏していましたが、お客様から『テレビの曲が聞こえて来たので、びっくりした』という感想を頂いたことを思い出します。

第1回の訪問地にウイーン(オーストリア)を選んだ理由を説明しなくても、クラブの皆さんは賛成してくれました。またオーストリアという国名でなく、ウイーンという首都の名前にしたことも異論はありませんでした。それほど音楽愛好者にとってウイーンは憧れの地であったのです。敗戦後、旧制中学2年のときに、戦地から復員した義兄のSPレコードを手回し蓄音器で初めて聴いた、ワルッ王ヨハン・シュトラウスの《美しく青きドナウ》を初めとする円舞曲・ポルカ・喜歌劇は、生涯忘れることが出来ません。その中から《ウイーンの森の物語》を50年後にマンドリンに編曲して、立川MCで演奏したときの喜びを想像してみて下さい。
もう一つ白状しなくてはならないことがあります。それはトリの曲に選んだ《ツィゴイネルワイゼン》です。この曲はヨーロッパの流浪の民ジプシーを題材にした、サラサーテの管弦楽付のヴァイオリン曲ですが作曲者はスペイン人なのです。しかし、当時ウイーンには多くのジプシーが集まっていました。それを理由にして《ウイーン紀行》のメインとして取り上げたのです。私はどうしてもこの曲をコンサートミストレスの豊田さんのマンドリン独奏で、立川MCのマンドリン合奏の伴奏で、音楽地球紀行の第1回特集で演奏してみたかったのです。